小説

2007/09/27

【ショートショート】時をかける悪夢

うわっ」

マンションのエレベータに一歩踏み入れたところでガムを踏んづけた。思わず声を出して目が覚めた。

6時45分。妻はもう起きている。台所に向かっているはずだ。子供たちも起きているに違いない。私はこの家で一番の寝坊だ。目覚ましのアラームは7時にセットしてある。アラームが鳴る前に目を覚ますのは珍しい。

体を起こし、リビングダイニングに向かう。リビングもダイニングも区別がない。ひと続きになっていて、テーブルがあるところがダイニングだ。子供たちは既にテーブルにつき、朝食を食べ始めていた。

新聞は息子が玄関の郵便受けから取って来ることになっていたが、今朝はまだのようだ。玄関まで行き、新聞を引き抜く。

今日は何曜日だったか。新聞の日付を見て確認する。金曜日。そうだ、金曜日だった。今日一日頑張れば明日は休みだ。

朝食を摂り、子供たちを見送ってから支度をする。フレックスを使って少しゆっくり目に出勤。今日は書きかけの論文を仕上げればいい。週明けに何人かに査読をしてもらう予定だ。

論文が早く仕上がったので、一部をプリントアウトし、それを鞄に突っ込んで定時に退社する。金曜日だが飲み会の予定も入っていないので、まっすぐ帰宅する。

マンションのエレベータに一歩踏み入れたところでガムを踏んづけた。

うわっ」

思わず声を出した。今朝見た夢と同じだ、と思った瞬間、目が覚めた。夢だった。妙に現実感があった。

6時45分。飛び起きて新聞を取りにまっすぐ玄関に向かう。新聞の日付は9月28日。金曜日だった。夢の中で夢を見ることはたまにあるが、こうもリアルに同じ事を繰り返す夢は初めてだ。しかも仕事を終えた夢を見た後にまた一日が始まるのかと思うと憂鬱になった。

食事を摂り、子供たちを見送ってから支度をする。念のため鞄の中を見てみたが、論文のプリントアウトは入っていなかった。あれはやっぱり夢だった。

夢の中で書いた論文の内容をおぼろげながら覚えていたので、かなり早めに仕上がった。夢の中でもそれなりに論理的に文章を考えていたようだ。夢のおかげで少し得をした気分だ。

定時で会社を出て帰宅する。エレベータが降りてくるのを待つ間、今朝の夢を思い出していた。エレベータの中には吐き捨てられたガムがあり、それを踏んだのだった。

エレベータの扉が開いた。息を飲む。踏み出そうとした足の先にガムが落ちていた。夢と同じだ。

ガムを避けてエレベータに乗り込む。行き先階のボタンを押し、扉を閉める。ガムはまだそこにあった。奇妙な感じがするので、ティッシュを取り出し、ガムを取った。

エレベータを降り、共有廊下を通って家のドアの前に立つ。鍵を取り出そうとして落としてしまう。

チャリン。

その音で目が覚めた。

6時45分。まただ。確認しなくてもわかる。金曜日だ。新聞の日付を見るのが恐い。しかし、見ずにはいられない。9月28日金曜日。間違いない。また同じ一日が始まったのだ。

帰りのエレベータのガムも一緒だった。今度はガムは放っておく。鍵を慎重に取り出し、帰宅した。はっとするようなことがあると、また目覚めるような気がする。

刺激があるとまた夢となってしまうのではないかと思い、いつになく穏やかな夜を過ごした。

寝つきは悪い方ではないが、変な一日を思い出し、なかなか眠れなかった。

いつの間にか寝ていた。気が付くと朝日が差し込んでいる。時計を見る。

6時45分。

嫌な予感がした。

新聞の日付は9月28日金曜日。また同じ日だ。

恐くなり、その場にへたり込んだ。今日の仕事は休みにしよう。出かけなければエレベータのガムもない。鍵も落とさない。一日何もせずに過ごすのだ。そして、寝ない。寝て起きればまた同じ一日が始まる。

何もせずに夜を明かすのはつらい。何か刺激を受けた瞬間、あの朝になるような気がするのだ。朝日が昇り始めている。時計を見た。

6時45分。

はっとして目が覚めた。

(了)

 

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